[キム・ジェヨンのコラム] 第4次産業革命時代、賃金引き上げを相殺する生産性の向上が核心

[執筆・写真=キム・ジェヨン、高麗(コリョ)大学融合経営学部助教授]


最低賃金の算入範囲が30年ぶりに拡大された。先週の25日、国会環境労働委員会は最低賃金計算の際に毎月支給する賞与と食費、宿泊費や交通費の一部を含む最低賃金法改正案を議決した。1998年、韓国の最低賃金制度が開始されて以来初めて、最低賃金に対する算入範囲が変更されたのだ。現政権に入って最低賃金は歴代最高の16.4%が引き上げられ、経済団体は一斉に今後の引き上げ速度の緩和と算入範囲の拡大を要求した。もちろん労働界は最低賃金の引き上げの意味をなくすことであると反対した。個人的に今回の算入範囲の拡大は、最低賃金の引き上げによる労働界や経済界の悩みが一定部分反映されていると思う。

しかし、当面の問題は最低賃金と関連した努力が誰にも歓迎されてないということだ。算入範囲の拡大に反対をしてきた労働界は、ゼネストや国民請願を要請しており、企業も賞与金の支払い方式の変更が厳しいと難色を示している。最低賃金の値上げ以降、懸念されていた自営業の経営難は現実になっており、週休手当てなどコストの増加を懸念した雇用縮小でむしろ失業が加重されるなど、最低賃金の引き上げによる副作用も依然として進行中であるからだ。そのため、今後の最低賃金と関連した議論がさらに深まる可能性が高い。

このように利害関係者とも対立するようになった理由は、どうしても賃金というのが我々みんなに関連があるからだろう。まず、賃金は基本的に労働力を売り買いする課程で互いの立場の違いが発生する。当然与える側は少なくあげようとし、受ける側は多く受けようとするためだ。これは間違ったのではなく当然なことだ。しかし、被害を受けた方とがあるから間に政府が介入した。そのため初期の最低賃金制度は女性や子どものような社会的弱者を保護して、労働搾取を禁止するために、勤労者が受け取った賃金の下限を国家が法によって強制することを意味する。

だが、最近の最低賃金と関連された対立と論争は過去と状況が違う。全世界的に2008年以後の景気不況が続き、最低賃金の引き上げに対する動きが激しい。英国、米国、ロシア、日本など先進国は先を争って最低賃金の引き上げについてのロードマップを進行中だ。特に、ドイツは長い期間の賃金を労使の自律に任せたが、最近になって法定最低賃金制度を導入し、賃金引き上げを主導した。

歴史的に賃金引き上げが最も大きく成功した事例として、1914年ヘンリー・フォードの新年の賃金引き上げが挙げられる。理事会の反対にもかかわらず、既存の賃金の2倍の引き上げを決定し、フォード社のハイランド・パークの自動車工場の前には労働者らが詰めかけた。労働者の購買力が高まり、フォード社は当時3交代で工場を回しても生産が需要に追いつけないくらいだった。なら、どうしてヘンリー・フォードは産業の平均賃金を上回る画期的賃金引き上げを選択したのだろうか。理由は「モチベーション」だった。当時、フォード社はベルトコンベヤシステムの導入によって人が作業台を行き来しながら働いていた方式から、自分の席で本人の仕事だけをする労働環境に急変する時期だった。これによって勤務怠慢や転職が大きく増加して生産効率が落ちる問題が発生した。「人は根本的に変化を嫌う」、これを革新的に解決するためのフォード社の方法が、まさに賃金引き上げを通じた解決策だった。

しかし、賃上げによる動機づけがいつも成功するわけではない。フォード社は16年後である1930年にもう一度賃金を大幅に引き上げた。米国の大恐慌の時期、企業人たちに「賃金を削減するな」という当時の米フーバー大統領の勧告によってだった。しかし、結果は予想と違い、正反対に表われた。深刻な経済不況が続き、フォード社の資金事情では1年も経たないうちに人員と給与を削減するしかなかった。最初は成功したが、なぜ次は失敗したのだろうか。理由はフォード社に最初の賃金引き上げ状況とは異なり、賃金の増加を相殺するほどの生産性向上策および革新的技術がなかったからだ。

多くの人たちが賃金について誤解している部分の一つが、自分が会社に与えている利益を考えることだ。これくらいは当然会社からもらわないといけないと計算する。つまり、自分が受け取る賃金は会社のために仕事をして、稼いできた正当な収益の分配と考えるという点だ。しかし、我々はいくらで仕事をするかをあらかじめ定めてはじめる。賃金は両面的だ。賃金は企業の立場としては費用で生産が行われる前にあらかじめ決定されるものであり、結果的に賃金の増加は生産費用の増加を引き起こす。したがって、賃金の引き上げは商品価格を上昇させ、これは需要の減少をもたらす。したがって、賃金引き上げを相殺できるのは企業の生産性向上にかかっている。だから賃上げはむしろ、企業に生産性増加に対する圧力として作用するのだ。

このような生産性向上のための圧力を克服し、我々は産業革命を経験した。まず、18世紀の第1次産業革命は毛織産業の賃金上昇を相殺するための蒸気機関の発達をもたらしており、1914年の第2次産業革命の傍点を打ったフォード社の賃金上昇は、産業の拡張とベルトコンベヤシステムを通じた大量生産を可能にした。インターネットを通じた第3次デジタル革命は、急激な賃金引き上げを導いていくよりは、コンピューターとインターネットを通じて、過去に比べて労働時間を減らすことで実質的な賃金上昇の効果をもたらした。

それなら第4次産業革命の時代を生きている今、全世界的な最低賃金の引き上げに対する現状の原因は何だろうか。先進国はすでに生産性向上のための準備が終わったということを意味するのではないか。言い換えれば、生産性向上に対する競争はもう始まったということだ。ただ最低賃金の引き上げはこれを説明する時代的な徴候にすぎず、他の先進諸国は革新的技術を備えてすでに遠くに出発した。

政労使みんなにお願いだ。生産性向上がない賃金の引き上げは、過去のフォード社がそうであったように、まるでヨーヨーのように再び戻ってくるかもしれない。今、我々に必要なのは自分の立場だけを考えず、易地思之(立場を変えて考える)の気持ちで生産性革新に向けた方策を探ることだ。

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